ボツリヌス治療
痙縮とは
脳卒中の後遺症、頭部外傷、脊髄損傷、脳性麻痺、多発性硬化症でよくみられる症状の一つに痙縮という運動(機能)障害があります。脳卒中後の患者の65%以上が発症すると言われるほどで、脳卒中後遺症として痙縮症状を有する患者数は全国で約55万人存在すると言われています。痙縮とは筋肉が緊張しすぎてしまう状態で、手足がこわばったり、つっぱたりします。上肢の痙縮では、手指が握ったままとなり開こうとしても開きにくい、肘が曲がる、等の症状がみられ、下肢の痙縮では足先が足の裏側のほうに曲がってしまい歩きにくくなるなどの症状がみられます。過剰な筋の収縮により関節の可動域が制限され、衣服の脱着や入浴などが不便となります。患者が困るばかりでなく、それを手伝う介護者の負担も増加してしまいます。痙縮による姿勢異常が長く続くと、筋肉が固まって関節の運動が制限され、拘縮(こうしゅく)という状態になり、日常生活に支障が生じてしまいます。また、痙縮がリハビリテーションの障害となることもあるので、痙縮に対する治療が必要となります。現在、痙縮の治療には、内服薬、ボツリヌス療法、神経ブロック療法、外科的療法、バクロフェン髄注療法などがあります。患者さんの病態や治療目的を考慮して、リハビリテーションとこれらの治療法を組み合わせて行います。
痙縮の治療
- 内服薬(飲み薬)
- 緊張している筋肉をゆるめる働きのある薬を服用します。
- 神経ブロック療法
- 筋肉を緊張させている神経に、フェノールやアルコールなどを注射し、神経の伝達を遮断し、筋肉の緊張を和らげます。
- バクロフェン髄注療法(ITB療法)
- バクロフェンという痙縮(けいしゅく)をやわらげる薬の入ったポンプを、おなかに植込み、持続的に薬を直接脊髄周辺に投与します。
- ボツリヌス療法
- 筋肉を緊張させている神経の働きを抑える、ボツリヌストキシンという薬を筋肉に注射します。
- 外科的療法
- 筋肉を緊張させている神経を、部分的に切断したり、神経の太さを縮小したりする手術です。
ボツリヌス療法
ボツリヌス菌(食中毒の原因菌)が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌストキシン)を有効成分とする薬を筋肉内に注射する治療法です。ボツリヌストキシンには、筋肉を緊張させている神経の働きを抑える作用があります。そのためボツリヌストキシンを注射すると、筋肉の緊張をやわらげることができるのです。ボツリヌス菌そのものを注射するわけではないので、ボツリヌス菌に感染する危険性はありません。ボツリヌス療法により手足の筋肉がやわらかくなり、動かしやすくなることで、日常生活動作(ADL)が行いやすくなります。手足の筋肉のつっぱりをやわらげることで、痙縮に伴う痛みを緩和する効果が期待でき、リハビリテーションが行いやすくなります。また、関節が固まって動きにくくなったり、変形するのを防ぎ(拘縮予防)、介護負担を軽くします。
ボツリヌス療法の効果
注射後2〜3日目から徐々にあらわれ、通常3〜4ヵ月間持続します。その後、数週間で効果は徐々に消えてしまうので、治療を続ける場合には、年に数回、注射を受けることになります。ただし、効果の持続期間には個人差があるので、医師と症状を相談しながら、治療計画を立てていきます。 この治療法は世界80ヵ国以上で認められ、広く使用されています(2014年1月現在)。日本では眼瞼けいれん、片側顔面けいれんのほか、次の疾患に対して医療保険の適用が認められており、これまでに10万人以上の患者さんがこの薬による治療を受けています。
- 痙性斜頸:首や肩の筋肉の張りによる異常姿勢
- 小児脳性まひ患者の下肢痙縮に伴う尖足(せんそく)
- 脳卒中などに由来する手足のつっぱり
ボツリヌス療法の副作用
ボツリヌス療法を受けた後に副作用として次のような症状があらわれることがあります。これらの症状は多くが一時的なものですが、症状があらわれた場合には医師に相談してください。
ごくまれに次のような症状があらわれることがあります。これらの症状があらわれた場合には、すぐに医師に相談してください。
- 吐き気がする
- 呼吸が苦しい
- 全身が赤くなる
- 物が飲み込みにくい
- けいれんが起こる
※この他にもボツリヌス療法を始めた後に、何かいつもと違うなと感じることがありましたら、医師に相談してください。
ボツリヌス療法の留意点
上肢・下肢の大きな筋肉に対して効果を及ぼすためには、十分量のボツリヌストキシンを投与する必要があります。ボツリヌストキシン製剤の薬価は100単位製剤の場合9万2249円ですから、下肢痙縮に対して1回投与量の上限(300単位)を投与した場合、薬価は27万6747円です。健康保険で3割負担なら8万3024円、1割負担なら2万7675円となります(以上、2012年2月現在)。
各自治体では身体障害者への医療費助成を行っており、身体障害者手帳を取得すれば自己負担額の全額または一部が免除される場合もあります。また、医療機関に支払う1カ月の自己負担額が一定限度額を超えた場合、超過分の払い戻しを受けられる「高額療養費制度」もあります。身体障害者への医療費助成の内容は自治体によって異なりますが、このような助成を利用することも検討すべきでしょう。
- 費用は保険適用ですが高額です。詳しくは担当医師へご相談下さい。
- ボトックス療法は事前に使用日時を指定し、製薬会社から取り寄せる必要のある特殊な薬剤です。
予約日をお守り下さい。
やむを得ず都合が悪くなった場合は、必ず当院の脳神経外科までご連絡をお願い致します。 - その他、ご不明な点がありましたら、診察の際に担当医師へご相談下さい。