パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(DBS)・たかの橋中央病院(広島市中区)
パーキンソン病は安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害を症状とし、中高年以降に発症して徐々に悪化する病気です。 振戦は手足のリズミカルなふるえを、固縮は、手足を動かそうとしたときに目的としている動きには本来必要でない筋肉にも無駄な力が入ってしまうために 手足がこわばってスムースに動かせない状態を指します。また、無動は、運動の麻痺がないのにもかかわらず動きの絶対量が減る現象を指し、歩行時にもあまり手をふらずに前屈みの姿勢で小刻みに歩くようになります。姿勢反射障害は、方向転換や歩行中の急な停止に伴う体のバランスの崩れを 防ぐとっさの素早い動きができなくなることを指し、このためパーキンソン病の患者さんは転倒して怪我をしやすくなります。
手術適応
パーキンソン病は大脳基底核の一部である黒質緻密層の神経細胞が変性、脱落し、神経伝達物質の機能的バランスが崩れることによりおこってくる、慢性進行性の疾患です。主な症状は振戦(手足のふるえ)、筋固縮、無動・寡動(動作緩慢)、姿勢反射障害です。進行すると姿勢異常や姿勢保持障害、転倒、すくみ現象等が出現し、日常生活が困難となり、最終的には寝たきり状態となります。パーキンソン病の治療はL-DOPAを中心とした薬物療法が基本ですが、L-DOPAの長期間内服により薬効持続時間が短縮し、症状が急に良くなったり、悪くなったりする日内変動が増悪し、不随意運動(ジスキネジア等)が出現してくることがあります。薬物治療による改善が困難な症状が持続する場合、副作用などで薬物治療ができない場合、機能的脳神経外科手術の良い適応となります。
適応基準(除外基準を含む)
- L-DOPAに対するはっきりとした効果がかつて認められ、その効果の程度は問わないが術前にも持続していること。
- パーキンソン病に対する薬物療法が十分行われたもの。
- 日常生活を困難にする程度のパーキンソン病による運動障害、薬物療法に伴う不随意運動を有するもの:Hoehn & YahrステージがOn periodにて1〜3、Off periodにて3〜5、但し、振戦の手術適応はHoehn & Yahrステージを考慮しなくてよい。
- 全身状態が良好であること(重篤な全身疾患がないもの)。
- 知能は正常であること(重篤な痴呆がないもの)。
- 情動的に安定していること(著しい精神症状を呈しないもの)。
- 脳の画像で著明な脳萎縮がないもの。
- 本人の同意が得られること。
判 定:以上の8項目をすべて満たすものを適応とし、そうでないものは除外します。
機能的脳神経外科手術(手術部位と術式)
- 視床手術:視床破壊術あるいは視床深部電気刺激術
- 淡蒼球手術:淡蒼球破壊術あるいは淡蒼球深部電気刺激術
- 視床下核手術:視床下核深部電気刺激術
手術部位と対象症候(改善率)
(A)視床手術
- 主に振戦(80〜90%)…術後3年経過で80%の有効率
- そのほかの不随意運動にも適応可能です。
- パーキンソン病以外の振戦にも効果が認められることがあります。
(B)淡蒼球手術
- 日内変動
- ジスキネジア、ジストニア(80〜90%)
- パーキンソン病の運動症状全般
固縮(50%)
振戦(60%)
無動/寡動(30%)
姿勢反射障害(40%)
*コメント:両側破壊術は原則これを避ける。
(C)視床下核手術
- 日内変動(術前のL-DOPA投与量が40〜50%減量可能)
- L-DOPA誘発性ジスキネジア
(L-DOPAの減量による二次的効果が期待できる。) - パーキンソン病の運動症状
固縮(50〜70%)
振戦(85%)
無動/寡動(60〜70%)
姿勢反射障害(50〜80%)
標的神経核と手術法による臨床効果のまとめ
- | 視床Vim核 | 淡蒼球内節 | 視床下核 | ||
- | 破 壊 | 刺 激 | 破 壊 | 刺 激 | 刺 激 |
振戦 筋固縮 無動・寡動 薬剤誘発性ジスキネジア 日内変動 歩行障害 すくみ歩行 姿勢安定性 |
◎ ◎ × × × × × × |
◎ ○ × × × × × × |
○−◎ ○−◎ ○ ◎ ○ △ △ × |
○−◎ ○−◎ ○ △−◎ ○ △ △−○ × |
◎ ◎ ◎ ○−◎ ○−◎ ○ ○−◎ ○ |
◎著効 ○有効 △やや効果あり ×効果なし
機能的脳神経外科手術法
(A)脳刺激装置植込術(脳深部刺激術)
- レクセルフレーム装着…局所麻酔下にてレクセルフレームを4点ピンにて頭蓋骨にしっかり固定します。固定の際(局所麻酔の穿刺時、ネジ締め付け時)に、若干の苦痛があります。(約10分間)
- MRI撮像…30〜60分かけて精密で詳細なMRI検査を行います。
- 手術目標点の決定…撮像したすべてのMRI画像をワークステーションに転送し、基準線(前交連と後交連を結ぶ線)、手術目標点(視床の核、視床下核、淡蒼球)、及び穿刺部位の決定を行います。
- 穿頭術…局所麻酔下で決定された穿刺部位の骨に1cm大の穴をあけます。
- 目標点の同定…微小電極により神経細胞の活動を記録し、さらには刺激を行い症状の変化を観察し、目標部位の同定を行います。
- 脳深部刺激電極留置…刺激を行い電極の設置部位が、最終的に適切かどうかを判断します。
- 閉頭…脳深部刺激電極を設置し、リード線は一旦体内に埋め込みます。
- 術後検査…術後数日して留置電極位置の確認のためMRI撮像を行います。
- 試験刺激…リードを体外式の刺激発生装置につなぎ最適刺激部位、刺激強度の決定を行います。
- パルスジェネレーター(刺激発生器)の植込…試験刺激で有効性を確認し、数日後にパルスジェネレーターを全身麻酔下で前胸部に植え込み、皮下で脳深部刺激電極のリード線と直結します。
(B)視床破壊術、淡蒼球破壊術
- レクセルフレーム装着…局所麻酔下にてレクセルフレームを4点ピンにて頭蓋骨にしっかり固定します。固定の際(局所麻酔の穿刺時、ネジ締め付け時)に、若干の苦痛があります。(約10分間)
- MRI撮像…30〜60分かけて精密で詳細なMRI検査を行います。
- 手術目標点の決定…撮像したすべてのMRI画像をワークステーションに転送し、基準線(前交連と後交連を結ぶ線)、手術目標点(視床の核、淡蒼球)、及び穿刺部位の決定を行います。
- 穿頭術…局所麻酔下で決定された穿刺部位の骨に1cm大の穴をあけます。
- 目標点の同定…微小電極を挿入し電気生理学的な目標部位の同定を行います。
- 高周波熱凝固巣の作成
- 閉頭
- 術後検査…術後数日して手術巣の確認のためMRI撮像を行います。
副作用、合併症
1. 植え込まれた機器の破損…脳深部刺激電極、刺激発生器の故障(2〜12%)
2. 手術手技による合併症…
- 脳内出血(3%)(破壊術に伴うものは10〜20%)
- 手術後疼痛、不快感(3%)
- 知覚障害(2%)
- 運動麻痺(1%)
- 皮下血腫(1%)
- 感染症(2〜3%)
- けいれん発作をはじめ一過性の神経症状出現(2%)
- 皮膚びらんによる器械露出(3%)
3. 破壊術、あるいは慢性刺激による副作用…
(A)視床手術
- 破壊術…構音障害(1〜10%)、対側の運動麻痺(0〜15%)、平衡障害(0〜6%)、知覚障害(0〜4%)
- 刺激術…構音障害(3〜22%)、平衡障害(3〜10%)、知覚障害(7〜30%)、認知障害(3〜5%)(刺激条件の調節により症状は軽快)
(B)淡蒼球手術
- 破壊術…視野障害(3〜15%)、認知障害(3〜5%)
- 刺激術…視覚異常(20〜30%)(刺激条件の調節により症状は軽快)
(C)視床下核手術
- 刺激術…錯乱、小声症、幻覚、(刺激条件の調節により症状は軽快)